極超低金利は間違っている。年利率0.1%という預金利息は古今東西に例がない。百万円を銀行に普通預金で預けて、一年経って千円の利息が付いただけで還ってくるのでは誰も本気で預ける者はいない。商売で使う金は絶えず流動するから、当座預金という口座はたとえ無利息であっても預金者は文句は言わないであろう。然し家計の預金はそれとは違う。預金額のうちから入用のときに入用額だけを引き出して使う預金である。総額のうち大部分は残したままで、預金は続けるのが通常のかたちである。これを年利率0.1%というような只同然の預金では銀行の笑いが止まらないだけで、家計は無視されている。本来銀行の普通預金の利息は、昔は年率3分5厘即ち3.5%と決まったものであった。今の年率0.1%の35倍の率である。それが経済の常態であり、金融の常識であった。現在のような異常な姿は全く考えられない時代であった。
閑話休題、それはさて置き、話を現代に戻せばそもそもこの、
極超低金利が不況の元凶である
ことを悟らなければならない。
このような無利子同然の超低金利が不況の根本原因であることを見抜かなければならない。超低金利の害のために、家計の所有する資産所得が落ち込んでいるからである。4千3百万所帯(※1)の預金収入が激減しているのである。即ちここに示した表1によれば、家計の利子所得は、平成3年(1991年)度を頂点として平成4年(1992年)度以降、平成8年(1996年)度迄の5年間連続して毎年低落を続けている。(国民経済計算年報、経済企画庁編、平成10年版、第1部フロー編17頁)
※1:経済要覧(経企庁、平成10年版)
表1.家計(個人企業を含む)の利子所得
| 年度 | 利子所得 | 低落幅 (前年比) | 低落率 (前年比) | |
|---|---|---|---|---|
| 基準年 | 平成3年度(1991年) | 32兆6184億円 | ******************* | *********** |
| 平成4年度(1992年) | 29兆6101億円 | 3兆0083億円 | 9.2% | |
| 平成5年度(1993年) | 28兆3278億円 | 1兆2823億円 | 4.3% | |
| 平成6年度(1994年) | 23兆9699億円 | 4兆3579億円 | 15.4% | |
| 平成7年度(1995年) | 22兆0962億円 | 1兆8737億円 | 7.8% | |
| 平成8年度(1996年) | 19兆7806億円 | 2兆3156億円 | 10.5% |
(出典:国民経済計算年報、経済企画庁編、1998年版第1部フロー編17頁)
一体このように急激に減少した原因は何であったのだろうか。この原因を究明する為に筆者は銀行の普通預金の金利を追ってみることにした。
そうすると果然、預金利息の利率が次表(表2.銀行の普通預金利率低落の過程)の如きものであることが判明した。
表2.銀行の普通預金利率低下の過程
| 年度 | 年月 | 年利率% | 概況 |
| 平成3年度(1991) (基準年度) |
平成3年4月〜平成3年7月 | 2.08% | 年利率半減 |
| 平成3年8月〜平成3年11月 | 1.75% | ||
| 平成3年12月〜平成4年1月 | 1.50% | ||
| 平成4年1月〜平成4年3月 | 1.00% | ||
| 平成4年度(1992) | 平成4年4月〜平成4年7月 | 0.50% | 年利率半減 |
| 平成4年8月〜平成5年2月 | 0.38% | 年利率半減 | |
| 平成5年3月 | 0.26% | ||
| 平成5年度(1993) | 平成5年4月〜平成5年10月 | 0.26% | 年利率不変 |
| 平成5年11月〜平成6年3月 | 0.22% | ||
| 平成6年度(1994) | 平成6年4月〜平成6年9月 | 0.22% | 年利率不変 |
| 平成6年10月 | 0.26% | ||
| 平成6年11月〜平成7年3月 | 0.25% | 年利率半減 | |
| 平成7年度(1995) | 平成7年4月 | 0.22% | |
| 平成7年5月 | 0.18% | ||
| 平成7年6月 | 0.16% | ||
| 平成7年7月 | 0.12% | ||
| 平成7年8月〜平成8年3月 | 0.10% | 年利率不変 | |
| 平成8年度(1996) | 平成8年4月〜現在(平成10年7月) | 0.10% |
表2(銀行の普通預金利率低下の過程)を概説すれば、平成3年度(1991:基準年度)を含め、平成3年度以降、現在(1998:平成10年7月)に至る6年間、一路、極超低金利即ち年率0.1%に達する低落の歩みを継続し続けて来たことを物語るものである。
即ち金利は安い程善しとする政府・日銀の当局者が決めた誤れる信念に基づき、ひたすら極超低金利0.1%年率のゴールを目指し邁進して来た経過を示すものが表2、銀行の普通預金利率の低下の過程である。
これでは家計の購買力が出動する力を失っている。家計が消費財を購入したくてもその原資を奪われてしまっているのである。極超低金利という魔物が家計の活力の根源を封じ込めてしまっているのが現状である。消費税5%という高率が購買意欲を減殺する以前の基本問題である。
世上騒がしく言われる如き、景気振興策に不良債権の処理をなどと言う漠然たることではない。銀行の不良債権は銀行が仕出かした過去の放漫経営の誤りで銀行が自らの力と責務によって解決すべき問題である。政府・日銀は、銀行がこのような放漫経営に陥ることを未然に防止することを怠った責を負うべきである。
それではどうすれば良いのか。その解決法はただ一つある。ただ一つだけで他に代案はない。唯一の解決法があるのみである。その解決法とは、家計に預金利息の所得をもたらす途を開くことである。家計の銀行預金を、それも定期預金や固定預金ではなく、普通預金の利息を引き上げることである。年率0.1%というような只同然、無利息同然の金利ではなくて、少なくとも年率2%に引き上げるということである。筆者がここで年率2%という数字を示したことには理由がある。それは極近い最近の実施値であるからである。即ち1990年(平成2年)9月17日より、1991年(平成3年)7月28日に至る約22ヵ月間の銀行の普通預金の年利率は2.08%であったことである。
(出典:経済統計年報、日本銀行調査統計局編、日本銀行発行、1997年(平成9年)版、145頁)
反論者はその期間(1990年9月〜1991年7月)は恰度平成ブームの期間に当り、銀行預金利息の利率も高率であったのは当然である。
しかしその短い期間が過ぎた後は急転直下、下降したという。
その通りである。しかしそれが超低金利採用という誤った政策の出発点であったのである。
前述した家計の銀行預金のうちの普通預金の金利を年率2%に引き上げるということは、現在の家計の普通預金の金利を年率2%に引き上げるということである。
家計(個人を含む)は幾程の預金を所持しているのかを見るに表3として揚げた資料(貸借対照表)によれば、家計の金融資産のうちの「通貨性預金」と「その他の預金」がそれに該当する。その金額は「通貨性預金」が90兆8767億円、「その他の預金」が583兆4046億円であり、その合計額は、
表3
家計(個人企業を含む)の期末貸借対照表
1996(平成8年)歴年末
1.略
2.略
3.略
4.金融資産・・・・・・1176兆8052億円
(1)現金通貨・・・・・・・・42兆0567億円
(2)通貨性預金・・・・・・90兆8767億円
(3)その他の預金・・・583兆4046億円
(2)+(3)=674兆2813億円
(4)〜(7) 略
(出典:国民経済計算年報
経済企画庁編
1998年(平成10年)版第2部ストック編331頁)
674兆2813億円となる。
この合計額に年率2%の利息を付けよということである。
即ち、674兆2813億円×0.02=13兆4856億円の利息を付けて支払えということである。家計の受け取りは銀行の支払いとなるから、銀行は驚愕するかもしれないが、それこそ政府日銀の正念場である。国家的救済の本領発揮の場である。これぐらいのことが出来なくて日本が世界一の債権国だなどと大きな顔は出来ない。畢竟全て国内問題ではないか、何処の外国にも世話にならず、日本国内だけで処理できる問題である。結局、マイナス成長という縮小再生産に活を入れる若干の一時的なインフレ政策に過ぎない。極超低金利が唯一の金融政策でそれ以外の政策は念頭にも浮かばないというのでは動脈硬化も甚だしい。ここは一転、超低金利政策を棚上げして適正金利政策を採用すべき時期である。
年率2%はそんなに驚くべき利率ではない。ただ従来の政策為政者にとっては、年率0.1%というような極超低金利が唯一で最善の金利政策であるとする頭脳しか持ち合わせていないから仰天するだけのことである。一円の金銭も国外へ出るのではないから心配することは全くない。
ただ若干問題があるとすれば、上述の13兆4856億円の利息の調達方法とその跡始末の方法である。
先ず調達は、日銀の全額引き受けによる赤字国債の発行に依る。日本の全家計を潤す資金であるから誰からの文句もない。家計を潤した金銭は必ず近い将来、政府に歳入の増加となって還ってくる。マイナス成長即ち縮小再生産の経済構造は、次の年次より体質の変革によって自から改まって行く。跡始末というような消極的な見解は霧散してしまう。米国のみならず世界が望んでいるのは日本の自からの金融政策に対する毅然たる処置である。
金利は安い程よいとして0.1%のような極超低金利に陥っているような情け無い態度には諸外国がうんざりし、軽蔑していることに思い至るべきである。
日本円の米ドル価格、外為相場は常に日本の金融措置を見守っている。時に米国に頼んで日米の協調介入などという小手先の処置をしても基本的な日本自身の態度鮮明による改革がないから外為相場は一時的に円高に振れても相場はよく知っているから直ぐ円安に戻ってしまう。日本が本当に円安を望まず、逆に適正な円高を輸入面に考慮して望むならばそれは正しい考え方である。何となれば適正な円高は単に輸入面において有利に留まらず、対外投資に毎年巨額の資金を注ぎ込んでいる(1997年(平成9年)には、15兆9270億円※1)わが国としては、その際、円売りドル買いの行為があるから当然円高の方が投資実現額が大となるからである。
(※1
出典:経済要覧、経済企画庁編、1998年(平成9年)版
190頁)
さて、茲に一つ、上述の家計に支払う利息の緩和策がある。それは利率の2%を1%に減額する寛容措置である。即ち家計の所持する「通貨性預金」と「その他の預金」の合計額674兆2813億円に対して年率2%に替えて、1%を支払うということである。そうすれば支払額は674兆2813億円×0.01=6兆7428億円となり、前述の半額となる。理論的には年率2%の支払いが正当であるが、赤字国債の額にも配慮して半額とするわけである。
この額ならば家計の潤いは少なくなるが日銀引き受けの赤字国債の発行は半額となる。
それでも円安に対する抜本的対策であることに変わりはないから効果は相当期待できると考えられる。